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名古屋地方裁判所 昭和29年(ヨ)1217号 決定 1954年12月28日

申請人 笹徳紙器印刷株式会社

被申請人 安藤宗一 外八六名

主文

一、被申請人等は別紙図面の名古屋市港区七番町三丁目二十五番地の壱宅地八百壱坪、同所同番地の弍宅地弍百四坪、同町四丁目六番宅地弍百坪四合五勺地上にある建物(現在申請人会社工場建物等として使用中)の内赤線で囲む区域に入つてはならない。

但し被申請人等中の組合役員が団体交渉の為に右立入禁止区域中の事務所及び応接室に立入ることはこの限りではない。

二、被申請人等は申請人会社が其の業務を遂行する為、前項の建物内へ原材料等を搬入し、及び右建物から製品等を搬出することを暴力又は脅迫によつて妨害してはならない。

三、申請人会社の其の余の申請は之を却下する。

四、申請費用は被申請人等の負担とする。

(注、保証金二十万円)

申請の趣旨

一、被申請人等は名古屋市港区七番町三丁目二十五番地の一宅地八百一坪、同所同番地の二宅地二百四坪、同町四丁目六番宅地二百坪四合五勺地上にある建物(現在申請人会社工場建物として使用中、但し食堂を除く)内に入つてはならない。

二、被申請人等は申請人会社が其の業務を遂行する為、前項の建物内へ原材料等を搬入し及び右建物から製品等を搬出することを妨害してはならない。

理由

当事者双方の提出した疎明資料により一応認められる事実関係に基く当裁判所の判断は次の通りである。

一、事実関係

申請人会社は紙器印刷業を営む会社で名古屋市港区七番町三丁目二十五番地の一宅地八百一坪、同所同番地の二宅地二百四坪、同町四丁目六番宅地二百坪四合五勺地上に工場を設け従業員百八十余名(被申請人等を含む)を使用している会社であるが、ここ一両年のうちに数回に亘り逐次従業員を整理したことがあつた為、其の従業員中活版印刷部門を中心とする被申請人等百余名の者は昭和二十九年七月十日笹徳紙器印刷労働組合(以下単に第一組合と略称する。)を結成し、同年十一月末頃申請人会社に対しユニオン・シヨップ制の採用外二項目の要求を提出したが申請人会社は之を拒否し右組合に対し工場一部閉鎖及び之に伴う人員整理を発表し、爾来数回に亘り両者間に於て団体交渉を重ねて来たが容易に妥結するに至らず、ここに申請人会社は同年十二月五日経営合理化による工場一部の閉鎖を理由に閉鎖部門に就労している被申請人安藤宗一他四十名の第一組合員に解雇の通告を為したため第一組合はこれを以て組合の弾圧を目的とした不当労働行為であり該解雇は無効なりとして同月六日申請人会社に対しその解雇の撤回をもとめ申請人会社に於てこれを容れないとみるや即日午後七時よりストライキに入る旨宣言し、引続き愛知県地方労働委員会に対し申請人会社との団体交渉の斡旋を申請した。そこで右委員会は同月八日より三日間に亘り両者の団体交渉の斡旋をなしたが双方自己の主張を固守して譲らない為不調の儘、右斡旋は事実上打切となつた。その間同年十二月七日午前八時三十分頃右第一組合員は申請人会社に対し団体交渉の為右工場へ入らんとした際之を阻止せんとした申請人会社の他の従業員(之等の第一組合員以外の従業員は間もなく笹徳紙器印刷民主労働組合を結成した。以下之を単に第二組合と略称する。)との間に若干の紛争があつたが、右工場に入つた後二、三時間に亘り第一組合の一部の者は団体交渉を要求して事務所に入り申請人会社の団体交渉を回避するかのような態度に憤激し第二組合員が従業中の平版印刷工場等の作業場に入り或は喊声をあげ、或は執務中の従業員に対し暴言をはき、或は紙類を毀損する等の暴行を為し、その間執務中の第二組合員の仕事を事実上不能に陥れ申請人会社よりの退去命令にも応ぜすして申請人会社の業務を妨害し、その後も申請人会社が出荷せんが為トラックに積載した製品を右トラックから無断でおろしてしまうような妨害行為もあつた。

さらに同月二十二日午前十時三十分頃申請人会社が日本専売公社より発注の製品「ゴールデンバット用レッテル」を積載出荷せんが為トラックを右工場内に入れんとしたところ、第一組合員は工場入口附近に於てピケを張り同入口門前に下水用コンクリート二個を置き針金等で右門をしばりつけて開門を不可能にしてトラックの出入を妨害した。そこで申請人会社は止むなく右工場の塀越しに手送りで右製品をトラックに積載せんとしたのを第一組合員は旗竿等で之を阻止し出荷を妨害せんとしたが申請人会社は之を排除して敢て右製品を出荷した。

而して被申請人等第一組合員は前述のストライキ宣言後今日迄申請人会社が発表した閉鎖部門である活版部門に属する建物(別紙図面赤線部分以外の建物。但し便所等の共用部分は論外。)に残留しているものである。

二、申請の趣旨第一項について

被申請人等がストライキ宣言の翌日である昭和二十九年十二月七日以降第二組合員が執務中の事務所作業所等に於て暴言暴行等によりその作業を中絶せしめて会社の業務を妨害した事実は前述の通りであり、且つ本件争議の経緯に鑑みれば今後とも申請人会社は被申請人等によりその業務執行が妨害される虞ありと推測されるのみならず、かくては申請人会社に著しい損害が発生すること必然である。従つて第二組合員が作業中の建物内への第一組合員の立入禁止を求める部分は相当であるが、被申請人が現に残留している活版印刷部門に属する前記建物は申請人会社に於て閉鎖を宣言し従つて申請人会社に於ては今直ちに右建物を使用する必要なくその他に特段の事情の認められない本件に於ては、被申請人等による申請人会社に対する業務妨害を排除する為に被申請人等に対し右建物に立入禁止を求める仮処分申請は其の必要性が未だ存しないといわなければならない。尚被申請人等中には非解雇者が含まれているのみならず被申請人安藤宗一等に対する前記解雇が有効であることの疎明が必ずしも充分ではないから本件工場建物中便所、風呂場、洗面所等へ被申請人等の立入を禁止することは不相当と解する。

二、申請の趣旨第二項について

被申請人等が申請人会社の出荷に対し或はトラック上の製品を無断で下ろし或は工場入口の門の開閉を不能にし或は積載を妨害した事実は前述の通りである。

一般に「ピケッティング」は言論による説得行為又は団結による示威等平和的な方法による限りはもとより何等違法ではない然し乍らたとい会社側に誠意ある団体交渉を遷延するが如き非難に値する行為が認められるにせよ、その非を責むる余りピケが右の限度を越え暴力又は脅迫によつて会社の物品の搬出入を阻止することは許されないといわなければならない。

三、以上の次第であるから本件申請は主文記載の範囲に於て理由があるものと認めて之を許容しその余は之を却下し申請費用については民事訴訟法第九十二条を適用し申請人会社に保証として金二十万円を供託させた上、主文の通り決定する。

(裁判官 成田薫 村本晃 黒田登喜彦)

(別紙省略)

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